5.近づく距離と遠のく心

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 ――いや、似てないから、今、向き合ってられるんだろうな。  そう、篤生は思い直した。  ここにいるのが一夏だったら、自分は仕事の皮を被ることも、きっとできていなかった。  準平とは、もう一度会うことができてよかったと本当に思っている。でも、一夏とは無理だ。一生会いたくないわけではないものの、まだ会えない。それがすべてなのかもしれない。 「準」  渦巻いていた感情を抑えて、再度、呼びかけた。   「言わなくていいこと言った。ごめん。言い訳に聞こえると思うけど、似てないからどうのって比べたわけじゃないよ。そもそも、一夏と準を比べたことって、たぶん、ないし」 「比べるまでもないから?」 「そうじゃなくて。兄弟でも、べつの人間だから。準は、一夏のいいところはわからないって言ったけど、俺は、一夏にもいいところはあると思うし、それと同じで、準にもいいところがあるって知ってる。でも、それは、比べるようなものじゃないだろ」  道徳の教科書のようなことを言っていると自分でも思った。けれど、そうとしか言えなかったのだ。
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