217人が本棚に入れています
本棚に追加
――そんなに兄貴がいいの?
今の準平の声じゃない、もっと昔。まだ中学生だったころの、準平の声。
何年も前に、実際に聞いたものだ。一夏とは違う、圧倒的なDomの威圧。はじめて浴びたそれに頭が真っ白になったことを、篤生は今も覚えている。
――なぁ、『言えよ、ぜんぶ』。
命令されて、身体が熱くて苦しい。言いたくない心の奥を勝手に暴かれているのに、拒否することができない。
答えて、褒めてもらいたいから。
けれど、思春期によくある「事故」だったのだ。
あのころの準平は、強いDom性をうまくコントロールできていなくて、でも、それはしかたのないことで。そうして、自分はおかしかった。
でも、と言い聞かせるように、篤生は胸中で呟いた。でも、今は違う。
――そうだ、今は違う。あのころとは、なにもかもが。
浅くなりかけた呼吸を整えようと、意識してゆっくりと数を数えていく。少しずつマシになる感覚に心底ほっとした。
これでどうにか取り繕うことができる。準平のために。
縋ろうとしていた手のひらを開いて、篤生はぐっと胸板を押した。
「準」
感情を抑えた声音で呼びかけて、顔を上げる。
「ちょっと頭冷やそう。準だって、こんなことしたいわけじゃないだろ」
自分のDom性の強さを承知していて、Subを傷つけたくないと言っていたのは準平だ。その蓋を半端な介入で開いたのかもしれないと思ったし、もっとそもそもで言えば、そんなふうに思わせた原因は、あのころの自分にあったのかもしれないとも思っている。
だったら、その責任は取らないといけない。
最初のコメントを投稿しよう!