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6.秘密
Subだからって、マゾヒズムの気があるわけじゃない。全員が全員そうではないのかもしれないが、少なくとも、篤生はそうだ。
痛いのは、嫌いだ。苦しいのも、嫌いだ。なによりも、そんな自分を見て、一夏が楽しそうに笑っているところを見るのが、いやだ。
――なんで、こんなことしてるんだろ、俺。
渦巻いて流れていく水をぼんやりと見つめたまま、頬にかかった髪を掻きやる。無理をして吐いたところで胃液しか出ないとわかっているのに、逃げるようにまたトイレに籠ってしまった。
はぁ、と溜息を吐いて、しゃがみ込んだまま、トイレの壁にずるずると背を預ける。
無理やりに吐いたせいか、頭が痛い。こめかみを押さえて、篤生はもう一度溜息をこぼした。
――こんなことしてる場合じゃ、ないはずなのにな。
自分も一夏も、もう三年生になった。大学受験まで一年もない。それなのに、勉強に身が入らなくなってしまった。正直、去年のほうがもっと勉強をしていたな、と思う。
放課後に、一夏の家で勉強をすることが多かったからだ。でも、進級したあたりから、勉強でないことをすることが増えていた。
「……でも、強要されてるわけじゃないし」
ぽつりと呟く。あたりまえだ。だって、自分は、ずっと一夏が好きだったのだから。そう言い聞かせて、どうにか篤生は立ち上がった。
いつまでも戻らなかったら、一夏が部屋で心配をしているかもしれない。
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