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「このあいだも思ったんだけど」
このあいだって、いったいいつのことだろう。そんなことを思いながら、うん、と頷く。
心当たりが多すぎて、自分でもよくわからなかったのだ。けれど、たぶん、最近の自分は、この家でまともな顔をしていない。
「調子悪そうっていうか、なんか、空元気って感じすごいけど」
「……うん」
「大丈夫? 家、帰ったら?」
「いや、……」
去年くらいからもうずっとぶっきらぼうだった準平が、心配して話しかけてくれている。そう思うと、「大丈夫」と笑うことはできなかった。
ぎゅっとコップを持つ指先に力が入って、それを見た準平が、「兄貴?」と言う。
「いや、一夏がどうっていう話じゃなくて、その」
「だって、いっつも兄貴に気ぃ遣ってんじゃん、なんでそこまでってくらい」
なんでそこまで、と言われても、返す言葉はなかった。せっかく喋りかけてくれたのに、苛立たせてしまった、と。申し訳なく思いながら、そうかな、と篤生は曖昧にほほえんだ。
「そうでしかないと思うんだけど。っつか、見てるこっちが腹立つ。ふつうに気分悪い。なんで、ああなわけ? おかしいだろ」
吐き捨てられた瞬間、ぞくりとした感覚に襲われた。指先が震えて、コップがカウンターに当たる小さな音が小刻みに響く。Domの圧だ、と遅れて気がついた。
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