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――そういえば、言ってたな、一夏。
準平のDomの数値は、信じられないほど高いらしい、と。
「――くん?」
その声に、はっとして顔を上げる。覗き込んでくる瞳と間近で目が合って、篤生は固まった。準平だ。でも、Domだ。
「大丈夫じゃないよね、顔、真っ青だけど。……ちょっと座ったら?」
ぎこちなく気遣う調子で、準平が篤生の指をコップから外していく。それだけで、なんの他意もない。わかっているのに震えが止まらなくて、ごめん、と篤生は振り絞った。
顔を見ることもできないまま、どうにか言葉を続ける。
「ごめん、準のそれ、ちょっと今はきつい」
「……篤生くんって、Subなの?」
少し驚いたような反応だった。自分のことをNormalだと思っていたのだろうか。兄である一夏と同じように。
本当は、Switchだ。でも、なんとなく言えなくて、小さく頷く。だって、今の自分はそうなのだ。
あの夏の日。はじめてSubを意識したときから、自分の中のスイッチはSubに振り切れ続けている。
「でも、兄貴は……」
「それでも、篤生は俺がいいんだって」
割って入った声に、うつむいていた顔を上げる。
「一夏」
準平に聞かせるような話ではないと思ったからだ。制止のつもりでかけた声に、なぜか一夏がにこりと笑う。
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