6.秘密

7/10
前へ
/145ページ
次へ
 俺のSubという言葉に、身体の芯はたしかに熱くなったのに、胸のどこかは冷たかった。  望むことを叶えて、褒めてもらえたらうれしい。一夏のSubになりたい。どれも、本当に思っている。でも。  ……準に言いたいだけだろ、これは。  自分のために使われている言葉ではない。それで、それは、今に限ったことではなかった。  気づきたくないから、気づかないふりをしていた。けれど、本当はずっと自分は知っていたのかもしれない。 「……っ、」  ぎゅっと指先に力が入る。  心も身体もぐちゃぐちゃで、自分のもののはずなのに、なにひとつ自分のものではないみたいだった。  呼吸がどんどん浅く忙しなくなっていく。怖い。寒い。  ――サブドロップって、こんな感じなのかな。  一夏はDomではない。でも、自分にとって、大好きで、役に立ちたい相手だったから。でも、その相手に愛されていないから。  バタンと勢いよく扉が閉まった音で、篤生ははっと我に返った。ぽたりと汗が落ちる。  準平の姿は、もうどこにもなかった。家の外に出て行ったのか、玄関の扉が閉まる音がする。  ずるずると篤生がフローリングに座り込んでも、もう一夏は支えようともしなかった。ただ楽しそうに笑っている。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加