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「なぁ、見た? あの顔」
「……一夏」
「あいつ、おまえのこと好きだよな。まぁ、本当、昔からだけど」
一夏、と震える声で篤生は繰り返した。なんだか、本当によくわからなかった。なにをやっているのだろう。なにも関係のない準平に、嫌な思いまでさせて。
「なに、さっきから」
「なに、じゃなくて。なんで、そんな言い方するんだよ。準はなにも悪くないだろ」
自分を心配してくれただけで、出て行ったことも、それがベストだと考えてしてくれたというだけのことだ。
それなのにという申し訳なさと、羞恥と、一夏に対する苛立ち。そういったものがにじんだ声になった。
責めていると取ったのか、一夏の声のトーンが下がる。
「篤生」
ふたりきりのときにだけ聞くそれに、びくりと肩が揺れそうになる。
「おまえ、俺のじゃなかったんだ」
「え……」
「なに、違うの?」
冷たい瞳に見下ろされて、反射で首を横に振れば、一夏が馬鹿にしたように笑った。
「じゃあ、なんで、俺よりあいつの肩持つわけ?」
「っ、だって……」
「だって、なんだよ」
だって、今のはどう考えても一夏が悪いだろう。そう答えればいいだけなのに、言葉にならなかった。
「なぁ、篤生。なに?」
おかしいとわかっている。でも、どうしても抗えなかった。一夏はDomではない。ならば、これはいったいなんの本能だというのだろう。
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