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好きだったのだ、本当に。
物心ついたころからずっと一緒で、十七年の人生のほとんどを同じ空間で過ごしていて、幼馴染みとしての好きが、片思いの好きにいつ変わったのかわからないくらい、ずっと。
でも――。
「……もう、いい」
こぼれ落ちた言葉に、はっとする。撤回しようとして、けれど、できないまま篤生はうつむいた。しないほうがいいのかもしれない、と思ってしまったからだ。
だって、一夏がこんなふうになったのは、きっと自分のせいだ。
「篤生」
しかたないな、というような、優しい声だった。好きだった、一夏の声。
視線を合わせるように、一夏がしゃがみ込む。伸びてきた手が両の頬を包み込むように触れて、うつむいていた顔を持ち上げた。
薄い涙の膜が張っていた視界が、一夏の顔でいっぱいになる。
「やめんの?」
その顔で、その声で、どこか寂しそうに乞われて。拒絶なんて、できるわけがなかった。ふるりとかすかに頭を振る。
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