7.変わりゆくもの

3/10

217人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
  『今度の金曜、どうする? 来るでよかった?』 『返事遅くなって、ごめん。ちょっとモデルのほうの仕事入っちゃって。終わるのいつになるかわからないし、やめとくね。ありがとう』  二日前、精いっぱいのなんでもない調子で送ったメッセージに、ようやく既読がついたと思ったら、これである。  始業前の区役所のデスクで、篤生は深々と溜息を吐いた。自分のほかに誰もいないことをいいことに、その調子のままぽつりとひとりごちる。 「……大丈夫って聞くのは、まずいよな」  むしろ、衝動のままに返していいのなら、体調も確認したいし、来ないなら来ないでいいけれど、病院に行く気はあるのかということも確認したいくらいだ。  はぁ、ともう一度溜息を吐いて、アプリの画面を凝視する。  ――なんか、どう返せばいいんだろ。  自分のことは気にしなくていいと改めて主張することも、直接会わないままメッセージで「ごめん」と伝えることも、なんだか少し違う気がする。    ――準に、変な罪悪感だけは持たせたくないんだけどな。  だって、そんなもの、持つ必要はないのだから。何度目かの溜息をこぼした瞬間、肩にぽんと手を置かれて、篤生はスマートフォンを取り落とした。  ガタンと鳴った物音に我に返って、振り仰ぐ。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加