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「……影浦」
「声かけてもぜんぜん気づいてないみたいだったかったから、寝てんのかと思った」
驚きすぎ、と軽く呆れたように笑った影浦が、正面の自分の席へと回る。
心臓を落ち着かせて、篤生も笑顔を取り繕った。
「寝てないし。ちょっとぼーっとはしてたけど。それより、どうしたの。早いじゃん」
「今日朝イチ面談入ってるから、その準備」
「あぁ、そっか。おつかれさま」
「秋原は?」
「ん?」
「早く来てるわりに、なにもしてなさそうだけど」
「あー……」
パソコンを起動させつつ、そう問いかけられて、誤魔化すようにスマートフォンのアプリを閉じた。
ついでに、パソコンのスリープモードを解除させようとマウスを動かす。
「ちょっと早く目ぇ覚めちゃって」
「急ぎの仕事ないなら、外でコーヒーでも飲んで来たらよかったのに」
そのとおりでしかなかったので、もう一度曖昧に笑む。なんだか、そんな気分にもならなかったのだ。
「まぁ、そうなんだけど。俺もやることあったから」
月末に人事課に提出する書類でも済ませてしまおうとファイルを開く。
教育を担当している野沢に関する報告書なので、野沢が隣で仕事をしていると、なんとなく書きづらいのだ。
――まぁ、でも、本当、積極的な態度見せてくれただけで、大進歩だよな。
事務能力自体は高い子なのだし。求められる内容を打ち込んでいると、そういえば、と影浦が話しかけてきた。
「前言ってた知り合いの子、どうなったんだ?」
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