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――今すぐ代わったほうがいいって雰囲気ではないけど。
大丈夫かな、と注視を続ける。
ごくたまに、ではあるけれど、窓口で揉めることはあるのだ。
「大丈夫ですか、あれ」
「うん。無理そうだったらすぐに――」
代わるから、と続けるつもりだった台詞が、喉の途中で消える。野沢に訝しげに呼ばれても、声が出なかった。
――やば、これ。
たいしたDomじゃないのに。自分に向けて発せられているものでもないのに、なぜか声が出なかった。
焦れば焦るほど息苦しくなりそうで、落ち着け、と必死で言い聞かせる。
あれは自分に害を成すDomではないし、それに――。
――一夏じゃない。
あれは一夏じゃない。
「たまには俺が代わるわ」
ガタンと音を立てて、影浦が立ち上がる。その音に、はっとして篤生は息を吐いた。
「空いてる面談室に移動させてくる。あれ以上、興奮させてもあれだし」
「そうですよ、たまには影浦さんがやったらいいと思います。いっつも秋原さんばっかり代わってますもん」
「だから代わるって言ってるだろうが。――すみません、ちょっと向こうで話しましょうか」
自分以上に強いダイナミクスを持つDomだとわかったのか、来館者の声から勢いが一気に抜けていく。
ほっとした様子の美園と一緒に移動していくのを見送って、野沢に気がつかれないよう、篤生は静かに深呼吸を繰り返した。
いまさらながら心臓がバクバクと鳴っていることを自覚して、どうしようもない嫌悪が募る。
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