7.変わりゆくもの

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「うわー、影浦さんはともかく、美園さんは災難でしたね。相手がDomってわかった途端に態度変える時点で、めちゃダサですけど」 「……だね」  いつもと変わらない野沢の軽口に相槌を打って、椅子を引こうとしただけだったのに、ぐるりと世界が回りそうになった。  咄嗟に机についた手のおかげで倒れるようなことにはならなかったが、耳障りな音が響く。 「ちょ、秋原さん。大丈夫です?」 「大丈、夫」  そう応じたのは、もはや反射だった。けれど、職場でこれ以上みっともない真似を晒すわけにはいかない。そう思う意地のようなものも、たぶんあった。  ――今までになかったSub性への偏りが見られますが、なにか心当たりはありますか?  ――要経過観察というかたちになりますが、今後この偏りが酷くなるようであれば、受け持つケースの特性は考慮したほうがいいかと。  いつもどおり、問題なし。それで終わらないといけない定期検査でそう言われてしまってから、ずっと。  どうにか折り合いをつけようと、篤生は努めてきたつもりだった。しばらくSubの側に立つケースは受け持たないと決めたことも、そうだ。    そうやって、少しずつ大丈夫に戻していくつもりだった。それなのに。
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