8.大好きな人

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「なに、篤生。俺より準平のほうがいいの?」 「なに言ってんだよ。どっちがいいとかあるわけないだろ」  ごくごく当然と、彼が言う。   「一夏は一夏で、準は準なんだから」  改めて向けられた笑顔に、じわりと心があたたかくなる。彼といると、いつもそうだ。だから、――自分が邪魔をしているとわかっていても、扉を開けることをやめることはできなかった。  年下である自分に構ってくれる、彼の優しさに甘えていた。  不満げな兄の表情に、きっと彼は気がついていない。兄の外面はいつだって完璧で、誰にでも平等に優しい優秀な存在だったから。弟である自分の前以外では。  そんな兄のことを、幼馴染みである彼が好いていることも、幼心に準平は知っていた。それでも、彼は、平凡な存在である自分にも隔てなく優しかったから。だから。    「ほら、準」  おいで、と差し伸べられる手が、分け隔てなく向けられる穏やかな笑顔が。  あのころの俺にとって、どれだけ救いだったのかなんて、きっとあの人は知らないんだろう。
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