第一幕〜今日からお父さんです〜

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2代目は地獄の閻魔サマなんだと思う。 これは小学校低学年の頃。 「あなたの新しいお父さんよ」2代目を紹介された。 2代目はお父さんと呼んでほしいと優しく笑った。 浅黒い肌のお兄さんだった。 ぱっちり二重で髪は1代目と同じくらいの長さだけど茶髪だった。 体格はよかったし、背もまぁまぁ高い。 いっもニッカポッカを履いて仕事に行っていた。 この頃の小学校での記憶ははっきりある。 でも実は2代目と生活していた2年間の家での思い出はほとんどない。 というか、家の中でのことはあんまり覚えてないのだ。 後でテレビや本で知ったこと 記憶がすっぽり抜けているのは防衛本能だったらしい。 つまるところ、ニュースで取り上げられるような事態になっていてもおかしくなかった そーゆーことが2年間の中で繰り返されていた。 あ、私は無事だったんだよ? 私に飛び火する前にホンモノが2代目を最終的には追い払ったから。 地獄の閻魔サマだった2代目の獲物は母だった。 2代目はお酒が好きだけどお酒を飲むと母といつも口論になっていた。 それからしばらくすると 母が昼間にお酒を飲むようになった。 元々怖いけど、さらに怖くなった母。 ちょっと間違ったら私の手を縛って私の口をタオルで塞いで 包丁を目の前に突きつけて脅してくるくらい。 でもそこはハッキリ覚えているから私のトラウマではないのだろう。 日々、痩せていく母の顔はいつも腫れていたらしい ここはあんまり覚えていない。 母の顔が腫れているのを見たのは私の記憶では一回だけなのだ。 あれはトラウマ級のトラウマで 記憶から消せないくらい大きな衝撃を与えた光景なんだと思う。 だから覚えている。 サスペンスドラマのテーマソングが流れそうな光景だった。 あと、私が初めて2代目に乱暴に投げられたのもこの時だった。 日付は忘れない。 だって私の誕生日だったからね。 母が作っていた誕生日ケーキは床に落ちて、部屋に入ってなさいと言われたから夕方まで部屋にいた。 誕生日に自分で買ったおもちゃを組み立てて 遠くで聞こえる罵声と悲鳴に聞こえないふりをした。 それでプレゼントの組み立てが終わった時、2代目は私の部屋に入ってそのおもちゃに拳を放って止めに入った母を引きずって部屋から出て行った。 2代目の血に濡れて、ぐちゃぐちゃになったそのおもちゃを見て あーあ、お年玉貯めて買ったのになぁと 思ったのは覚えてる。 そのあとさらに罵声と悲鳴がヒートアップして 空腹に耐えながら壊れたおもちゃを眺めてしばらく シーンと静まり返った家の状況に気づいた。 これはようやく母にお腹すいたと言えるなぁと部屋を出て 血痕をみつけた。 その跡を追うように歩くとリビングで、母が倒れ込んでいるのをみつけた。 「おかーさん?」 揺すってみたがぴくりとも反応しない、うつ伏せのまま倒れ込んだ母に 流石に怖くなって何度も声をかけて泣き叫んだら 後ろから突然2代目に首根っこを掴まれるようにして持ち上げられ、部屋に投げ込まれた。 投げ込まれた際に背中を強く打ったのでそのままごろごろと無言でのたうちまわった。 声を上げたら、どうなるか分からないと思ったんだとおもう。 それで、そのまま部屋で静かに泣き崩れた。 お母さん、死んじゃったんだ、と。 そういえば何日か前に怖いドラマで子供を想う母幽霊の話をお母さんとしたなぁ、と思い出した。 「羽季はもしお母さんが死んだら幽霊でもいいからお母さんに会いたい?」って聞かれて 「怖いから出てこないで。」って答えたなぁって思った。 それからこう思った。 天国のおじいちゃん、お願いです 幽霊のお母さんは怖いので、お母さんを生き返られせてください。 ひとりでどうやって生きていけばわからないし 怖いし寂しいから、お願いですおじいちゃん お母さんを生き返らせてくださいって。 いつの間にか何回も何回も声に出して呟いていて 部屋のドアが開いた。 「羽季、いつまで騒いでるの、早く寝なさい。」 母の声だった。 顔を上げた。 幽霊より怖いボコボコに腫れ上がったお母さんの顔がそこにあった。 ちょっと引いた。 ついでに涙も引っ込だ。 これはトラウマと言えると思う。 いい歳になった今でもこれを口する時は身体が震える。 でも、 母はおかしな人だったけど それに負けず劣らず、私もおかしな子供だった。 自分の身を守ることを知っていたのか 自分の身が一番大事だったのか わずかに覚えている2代目との記憶は 大体が2代目と笑って話す自分だ。 母が悲惨な目に遭っていた筈なのに、その辺はほとんど覚えていないし なんなら肩車してもらったとか レーズンチョコを買ってきてくれたとか 私にはプラスの記憶の方が多いのだ。 だから、大人になってから改めて 母の友人やホンモノから2代目の話をされた時に そんなに悲惨だったっけ?と衝撃を受けた。 それで2年間の記憶がほとんどすっぽりないことに気づいたのだ。 まぁ、それはさておき、、、 地獄の閻魔サマから獲物は逃れたがるに決まっている。 当然、2代目から離れようと試みた母は夜逃げ同然で2代目の家から引越しした。 小学校2年生の頃だ。 忘れもしない引越しの記憶。 学校に昼間やってきた母は、状況がよく分かってない私にお友達とお別れの挨拶をしなさいと言った。 訳の分からないまま、母と2代目の家に帰って最小限の荷物だけを詰めさせられた。 すぐに母の友人の車に乗って 知らない街の知らない家に連れていかれた。 そして母は言ったのだ。 「今日からここが新しいお家よ」と。 そして新しい家に慣れてきた頃、 「今度こそ、お前のお父さんになるからな」と2代目が笑って言った。
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