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「ところで……君はを知ってるかな?」  イスルギはいつもと変わらない調子で唐突に言った。 「……小学校とかの怪談話ですよね。夜中に忘れ物を取りに行くと、十二段だったはずの階段が十三段になるとか」 「そう。怪異が起こる恐怖の階段だ。幾つものバリエーションがあってね。その十三段目を踏むと行方不明になる、死ぬ、得体の知れない人ならざるものが現れる、またそれに襲われる、また(さら)われる。十三段目の天井から首吊り用のロープが下がっているというパターンもある」  はあ、と僕は相槌をうった。 「元々、十三階段というのは絞首台の異称だ。ポツダム宣言後の極東国際軍事裁判――いわゆる東京裁判での処刑台の段数からきたものだと言われているよ。ちなみにキリスト教文化では十三という数は不吉と考えられている。いわゆる忌み数というやつだな。キリストの処刑された日が十三日の金曜日であることは日本でも有名だろう。また、サタンが十三番目の天使であるとされていたり、イエスを裏切ったユダが最後の晩餐で着いたとされているのが十三番の席だと言われていたり――しかも面白いのが、これらはすべて俗説で、聖書にはっきりとした記述はないそうだ。そういった様々な要因(ファクター)を小学校の怪談は取り込んでいったわけだな」  イスルギの抑揚の少ない低い声で話されると、何でもない蘊蓄(うんちく)もなんだか怖く聞こえた。イスルギ自体が不気味な雰囲気を醸しているからかもしれない。 「さらに面白いのが、この十三階段が学校だけに限らず病院やマンションなどといった他の建築物にも派生しているということだ。しかし舞台が学校から離れただけで同じ現象でも怪談でなく都市伝説と言ったほうがしっくりくるね」 「……今から僕が(のぼ)らされる階段が、その十三階段ってことですか」  鋭いじゃないかとイスルギは言った。  そんなの、話の流れで誰だって気付く。なんだか小馬鹿にされたようで僕はむっとした。
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