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「でも僕は大人だし……廃墟なんかに行ったってそんなに怖がれないと思うんですけど」 「心配しなくても、そこはだから」  意味ありげな台詞だった。いぶかしげに見上げた僕を、イスルギは斜に見返す。 「そのビルはな、噂だけでなく実際に行方不明者が何人も出ているんだ。もともとは平成初期に建てられたテナントビルだったそうだが、深夜まで残っていた社員や夜勤の警備員などの不可解な失踪が後を絶たなかったそうだ。現在は事務所や店舗もすべて撤退し、廃ビルとなっているが、その後も不法侵入した浮浪者がよく消えるらしい」 (実際に、人が消えている……?)  いきなりぞっとした。夜のビル内で人の失踪する何かが起こっていることは確かなのだ。原因が心霊的な何かであってもなくても、危険なのではないだろうか。 「そう不安そうな顔をすることはないよ。怪奇現象なんてそう狙って起こるものではないんだから。むしろ我々にとっては、実際に怪異が起こるか起こらないかはあまり重要ではない。を求めているんだからな」  そっと言い聞かせるような声音だった。 「まあ実際に怪異が起こって君が神隠しにあったりすれば、その経験の値は天井知らずにつり上がるだろうが――そううまくは行かないだろうね」  イスルギは薄く笑うと、車窓の闇に目を向けた。
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