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「景!! 乗っちゃ駄目だって!!」
間宮は我に返ったように足をとめた。振り向くと、いがぐり頭がきつくこっちを見据えていた。
(……景?)
一瞬ぽかんとしてしまったが、すぐにそれが間宮の名前であると思い至る。
呆然としているうちに幽霊列車の扉は閉まり、出発してしまった。
いがぐり頭は腕をつかんだまま、「はー」と大きく息を吐いた。俺も内心で安堵の息を吐く。
「……ありがと、しょうちゃん。また止めてくれて」
間宮が言った。喋った感覚があったが、自分の意思でないのが不思議だった。——本当に別の人間の中に入っているのだ。
俺は小学生を見つめた。しょうちゃん。それがこのガキの名前らしい。マジで助かったよしょうちゃん、と心中で手を合わせる。
そのしょうちゃんは唐突に「時刻表見てくる」と言ってぱっと駆け出した。俺はぎょっとする。しょうちゃんが目を離した隙に、また間宮が妙なことをしでかさないか不安だった。
(しょうちゃん、早く戻って来いよ)
思わず希うようにそのランドセルの背中を見つめてしまっていた。あんな子供に頼り切ってるのが情けなかったが、一人にしないでほしかった。
すると間宮は、すぐに小走りでしょうちゃん後を追った。俺はほっと安堵した。なぜだか懐かしい感情がなだれこんできて、間宮は幼い頃、こんなふうにしょうちゃんの後をついて歩いていたのかもしれないと思った。
しょうちゃんは待合室の前の大きな看板を見上げていた。こんなところに時刻表なんてあっただろうか——不審に思いながらしょうちゃんの隣に立ち、唖然とした。
白いボードの書かれていた文字は、ひらがなや漢字の中に、アルファベットやアラビア文字などがごちゃごちゃに混ざって並んでいたのだ。よくよく見れば、エジプトの古代文字っぽいのや、よくわからない子供の落書きみたいな記号も混じっている。
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