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(なんだこれ。読めねえよ!)  時刻を表しているであろう箇所に記された数字もめちゃくちゃだった。億や兆、京といった巨大な単位の数字が羅列してあるのだ。  しょうちゃんは生真面目な顔でその看板を眺めていたが、「あー! だめだ」と天を仰いだ。 「次も次も幽霊列車だよ。乗り換え最悪じゃん!」  ――読めるのかよ。俺は驚いてしょうちゃんを見やる。 「景、帰るの遅くなったらママに怒られるじゃすまないだろ」  うん、と間宮は視線を落とした。動揺したように視界が左右にぶれている。 「どうしよう。どうしようしょうちゃん。間に合わなくなっちゃうよ」  強い焦燥が胸中に込み上げたのがわかった。  親に怒られる、そんな単純な焦りなんてものじゃない。——。 「じゃあさ、もう歩いて帰ろうぜ」  しょうちゃんは大人びた口調で言うと、改札に向かって駆けた。  待ってよ、と間宮も駆け出す。もちろん俺自身も走っている感覚はあるのだが、夢の中のせいか、なんだか足元がふわふわしたような妙な感じだった。 (それにしても……取り返しのつかないって何だ)  間宮は、何に怯えているのだ。  一番線に列車が参ります――。  アナウンスが入った。  あの死人がぎっしり詰まった電車が来ると思うと、ぞっとした。間宮が急に方向転換してその電車に駆け乗り込みやしないか一瞬不安に思ったが、足はそのまま前を走る黒いランドセルを追った。  二十歳の大学生が小学生男子に追いすがるさまは現実だったら犯罪じみた絵面(えづら)じゃないだろうかと思う。  しょうちゃんは、間宮の小学生の頃の友達だろうか。 (……まさかの友達じゃないよな。下手したら事案だぞ)  そこで自分が間宮の私生活を全く知らないことに思い至った。下の名前すら今知ったくらいだ。
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