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 タクシーは駅前のさびれたシャッター街を過ぎ、大通りを裏に回って古びた雑居ビルが立ち並ぶ細道に入って行った。  いかにも何か出そうな雰囲気の廃ビルの前で、僕とイスルギはタクシーを降りた。 「これがそのビルだ。閉鎖後は買い手もつかず、そのまま廃墟のようになっている」  僕はスマートフォンで時間を確認した。深夜の二時半を過ぎたあたりだった。 「古来より丑三つ時は不吉な時間帯と認識されているが、行方不明者の失踪時間もその時間帯に集中しているそうだよ。面白いだろう」  実際に人が失踪しているというのに何が面白いのだろうか。  不謹慎さに呆れかえる僕を後目(しりめ)に、イスルギは「さあ行こうか」と歩き出した。黒スーツが闇に溶け込んでいくように見える。 「……勝手に入ったら、不法侵入になりませんか?」 「無断で入るわけがないだろう。ビルのオーナーに話はつけてある。鍵だって管理会社を通してちゃんと借りているよ。当社を無節操な動画共有サイトの軽犯罪配信者と一緒にしないでくれたまえ」  軽蔑した目を向けられ、僕は黙した。——それもそうかと思う。  それにしても、イスルギの僕に対する態度が短期間で無遠慮になっている気がしないでもないのだが気のせいだろうか。
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