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 駅を出ると、景色は夕焼けの濃いオレンジ一色に染まっていた。  ただ、そこは大学の最寄り駅前ではなく、まったく見知らぬ場所だった。どこか鄙びた駅前商店街が広がっているはずなのに、整然とした街並みが広がっていたのだ。  視界に映る、焦点の合わない道路標識に目を凝らす。——都営地下鉄光が丘駅。 (は? 地下鉄?)  先程まで普通に地上のホームにいたはずである。目の前は海で普通ではなかったのだが――とにかく地下鉄ではなかった。  間宮はまったく疑問に思ってないようだった。帰路を急ぐあまりそれどころでないのかもしれない。  だがそこは間宮にとってはよく見知った場所のようだった。迷いない足取りで歩道を駆けてゆく。 (あれ、そういえばしょうちゃんは――)  いつの間にか一人だった。夢あるあるである。  俺は、彼がいないことに酷く不安を抱いた。  一方で、間宮の意識からはしょうちゃんはすっかり消えているようだった。その胸中は、恐怖にも似た切迫感に押しつぶされそうになっていた。  早く、早く帰らないと間に合わなくなる——。激しくそう思いながらも、家に帰ることへの尋常でない怯えを感じていた。  早く帰らなきゃだけど怒られるから帰りたくない。そういった子供じみた葛藤なんかじゃない。  帰らなければ恐ろしいことが起ってしまうのに、帰ってしまったら終わりが来るように思う。——家で、一体何が待っているというのだ?  その時、車道を挟んだ向かいの歩道に立つ一人の男に目がとまった。  男は一見背景に紛れているようで、ものすごく浮いていた。それぞれ往来している夢の登場人物たちの中で、一人、こっちをむいて突っ立っているのだ。  焦点があってないので()やけてよく認識できないが、三十代か四十代くらいの、汚らしい格好をした男だった。無精髭を生やし、白髪まじりの髪もぼさぼさで、緑がかったグレーの作業着を着ている。
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