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バスを降りるとそこは閑静な住宅街だった。いかにも裕福層が住んでいそうな広い庭付きの家が並んでいる。まったく知らない場所なのに、どこか泣きたくなるような、懐かしさを覚えた。間宮の感情に感化されているのだろうか。
外はずいぶんと薄暗くなっている。空の端っこの紫の闇が妙にリアルで、不穏な間宮の内面を表しているようだ。
間宮は一軒の家の前で足をとめた。
カントリー風というのだろうか。黒い三角屋根に、木の質感を生かした白い外壁。洒落た感じの家だなあなどと思いながら眺めていると、急に冷たい汗がどっとふき出した。足も小刻みに震え出す。
(間宮?)
突然のことに狼狽えていると、恐怖の感情がなだれ込んできた。
嫌だ。もう、見たくない——。
(……何を、見せられる?)
知らず呼吸が切迫する。こんなにも怯えているにもかかわらず、間宮は植物をモチーフにした鉄門扉に手をかけた。
俺はぎょっとする。その手が幼かったのだ。肩もずっしりと重く、気付けばランドセルを背負っている。まわりの風景もなんだか大きかった。
(……子供になってる?)
ふいに喉の奥が熱くなり、涙がこぼれた。
(涙? あの間宮が?)
いや、これは自分の知ってる間宮じゃない。子供の頃の間宮なのだ。
間宮はしゃっくりのような嗚咽をあげながら、門を押し開け、石畳を歩き出した。
幼い間宮がこんなにも——大人の自分でさえ耐えがたいほどの恐怖の最中にいる。
可哀想だった。泣くほどなら引き返せばいいのだ。どうせ夢なんだから。どうして進んでしまうのか。
間宮は、姿だけでなく感情まで幼くなっているようだった。それに俺自身も確実に引きずられていた。行きたくない。怖いよう――子供じみた、だがどうしようもない怯えが込み上げる。
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