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 アイアンで飾られた重厚な玄関ドア前に立つ。子供の目線では威圧的なほど大きい。  震える手が、高い位置にある真鍮のドアノブを掴み、引き開けた。染みひとつないテラコッタタイルの三和土(たたき)で靴を脱ぎ、無垢材の長い廊下をそろそろと進んでゆく。恐怖のためか視界は(せば)まり、ぐらぐらと揺れているようだった。  行くな。行くな。引き返せ——。それが自分で思っているのか、間宮が思っているのか、すでにわからなくなっている。  廊下の右手側のドアの前で間宮は立ち止まった。足がすくんでいる。歯の根が合わぬほどの恐怖。  ここだ、と思った。。強制的に——。  無情にも、間宮の手はドアを開けた。  広々としたリビングダイニングだった。奥にはバーカウンターを思わせる対面キッチンが備え付けられている。  キッチンの手前に置かれた六人掛けのテーブルには、三体のマネキンが席についていた。 (……え?)  中年の男性と女性、そして中学生くらいの女の子のマネキンだった。あまりの異様さに俺は唖然とした。  テーブルには、レストランのコース料理さながらに白い平皿がいくつも乗せられていた。中央のメイン皿の脇にはナイフとフォーク、スプーンが並んでいる。  ただ、皿はすべて空だった。
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