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(なんだこれ……)  思わず呆然としていると、間宮は泣きながら女性のマネキンの椅子を引いた。その胴体にしがみつき、ぐっと引っ張る。椅子から下ろそうとしているのだと気づいた。だが、大人サイズのマネキンは子供姿の間宮よりもずっと大きく、またありえないほど重かった。まるで鉛でできているようだ。  やがてマネキンは椅子からずり落ち、間宮もろとも床に倒れた。 (()って……)  俺が痛みをこらえている間にも間宮は立ち上がり、マネキンの足首をつかむ。  どこかに運ぼうとしているようだった。だが、マネキンはびくともしない。なんて重さだろうか。腕が痺れ、肩も外れそうだった。なのに間宮はお構いなしに渾身の力で引っ張り続ける。やがて足首は手からすっぽ抜け、床に勢いよく尻餅をついた。  尾骶骨が痺れるほどだったが、間宮は痛みなど構っていられないようすですぐに身を起こした。 (まだ続ける気かよ——)  間宮は再びマネキンの足首を掴み、ふいにはっと息を飲んだ。  俺も息がとまるほどに驚いた。いつの間にか、あの作業着の男がダイニングテーブルの席に座っていたのだ。  間宮の焦点が男に釘付けとなり、俺は初めてその顔をはっきりと見た。  脂じみた汚らしい髪、表情もなく弛緩した口。光のない双眸。男はまったく生気がなく、同席している二体のマネキンよりも無機質に見えた。 「……あ……」  幼なげな震え声で我に返る。  間宮は、凍りついたように立ちすくんでいた。 (しっかりしろ間宮‼︎ 逃げるんだよ‼︎)  男はおもむろにテーブルに並んだナイフを掴み取ると、立ち上がった。
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