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「イスルギさんが言ったんじゃないですか。人体の一部は本人の形代になり、道ができる。その道を伝って悪いものが本体のところに来ると。だがあなたは用心深く、髪の毛一本にすら神経を尖らせるほど几帳面で神経質だ。叔父の何かを持たせるなんて、とてもできないだろうと諦めていたのですが。まさかご自分から求めてくれるなんて――」  ——叔父の記憶が道となったのだ。  冷たい汗が、背筋を伝ってゆくのを感じた。  これは——自分が撒いた種なのか? 欲を出し、殺人犯の記憶など欲しがったから――。 (待て。……本当にそうか?)  イスルギが叔父に興味を持ったのは、呪物を作る過程がきっかけだった。間宮が戦没者の遺品と入れ替えた物——その正体が知りたくて、間宮について詳しく調べたのだ。その身の上も含めて。  あの時から、叔父に興味を持つように仕向けられていたとしたら? 巧妙に人を誘導し、罠にかけるという、母のように。  イスルギはごくりと生唾を飲み込んだ。 「……では、君の家族は今、叔父でなく私のところにいるのか?」  間宮はふいにイスルギの頭の上あたりに視線を向けた。イスルギは思わず頭上を見上げた。続いて、身体のまわりを見回す。 「影らしきものすらまったく見えない。……また私を騙そうとしてるのか?」 「ね。でも声が聞こえているなら、きっとすぐに見えるようになりますよ」 「声だと?」 「イスルギさん、この部屋に入ってすぐ、叔父がずっと喋ってると言ったでしょう」 「それがなんだ。今だって……」  イスルギは叔父に目を向け、息を飲んだ。  叔父はぽかりと口を開けたまま——何もしゃべっていなかったのだ。 「主治医の言うとおり、叔父は失声症なんです。事件以降、一言も喋っていません」 (では、この声は……?)  脳の底をざわざらと撫でまわすような、耳障りなこの声は——。
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