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「そんなに怯える必要ありませんよ」
間宮は言った。
「はじめの叔父に行っていた頃に比べたら、もう残り香のようなものですから。ずいぶんと楽になっているはずです。でも――叔父のように一気に壊されるのと、ゆっくりと壊されてゆくのと、どっちがましなのかな」
間宮は再びイスルギの頭上付近に視線を馳せた。
「これも神主さんの受け売りですが、こういったものは寿命も時間の観念も無く、何十年何百年と呪いは続くそうですよ。もしかしたら、早々に壊れてしまった方が楽かもしれませんね」
大丈夫ですよ、と間宮は一変して明るい声で言った。
「叔父さんのように壊れたくないなら、僕の記憶をお客さんに売り続ければいいんです。僕だって嫌いなあなたに頼らねばならないことに思うところはありますが――僕たちは一蓮托生です。家族が完全に消え去るまで、一緒に頑張りましょうね」
間宮はイスルギの手を取ると、いたわるように微笑んだ。
——自分が間宮を捕らえているつもりで、捕らえられていたのか——?
イスルギは、現実感のともなわない眩暈を感じた。
そこで間宮はふいに、ふふっと笑った。
「でもあなたのようなね——失礼ですが太々しい人があの母に苛まれると思うと……つい面白いって思ってしまう。母があなたに何をするのか、あなたがどうなってしまうのか、ちょっと楽しみなんです。僕は人を壊して喜んでいる母とは違うと思っていたけど、やっぱりあの人の血を引いているんだなあって。――それがすごく悲しい」
間宮は呟くように言うと、目を伏せた。
(了)
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