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――色がない。
それが事務所の第一印象だった。
壁も床も天井も真っ白なだだっ広い空間に、真っ黒な応接セット――向かい合う黒レザーのソファーに黒脚ガラステーブル――がぽつんと設えられている。まわりの白さと対比してそこだけ闇が覗いているように見えた。家具はそれだけである。
三ツ橋は「どうもー」と愛想よく声を掛けてずかずかと足を踏み入れた。モノトーン一色の背景に髪も服も派手な男が入りこむさまは、まるで異物が混入したように見えた。
少しの間の後、奥のドアから現れたのは、おそらく三十代半ばであろうと思われる顔色の悪い男だった。
男も色味がなかった。黒スーツを身にまとい、波打つ黒髪をオールバックにしている。
病んでいるかの如くに目に光がなく、無表情で、なんだか不気味な印象だった。
男はつかつかと近づいてくると、僕の真ん前に立った。
対比する家具が少ないせいかなんだか遠近感がよくわからなくなっていたが、近くで見ると長身なのがわかる。
僕が「間宮です」と会釈をすると、男はじっと見下ろしてきた。ふうんと目を細める。
「そうか。君が間宮くんか」
低くぼそっとした声だった。なんだか怖い。
男はイスルギだと名乗り、ふいっと目を逸らした。怖いだけでなく――かなり感じが悪い。
「あの、アルバイトの面接にお伺いしたんですが……」
ああそうだった、とイスルギは応接ソファーを顎で示した。
「掛けたまえ」
居丈高な態度である。どうして僕が話を進めなきゃならないんだと思いながらも革のソファーに腰を下ろした。三ツ橋も隣に座った。
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