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(置いていかれた)
取り残され、僕は愕然とした。
この薄気味悪い男と二人きり――。
額にじわりと汗が滲む。心中で警鐘が鳴っている。
――何とかして断らなければ。
どう切り出そうか言葉を探していると、イスルギがおもむろにソファーから立ち上がった。入り口のガラスドアに向かい、サムターンを回して内側から鍵を閉める。
「なんで鍵を……!」
「話を邪魔されるのが大嫌いなんだ」
イスルギは壁の埋め込み型ボックスを開けてスイッチを押した。電動シャッターが音を立てて下りてゆく。
(話って……何をする気だ)
僕は凍りついたように立ちすくむ。
「なにも取って食いやしないよ。面接の続きをするだけだ。――だがこれからの話は、君にとってもあまり人に聞かれたくないであろう内容だからね」
イスルギは戻ってくると、応接ソファーに腰を掛けた。バインダーファイルを開く。
「ご両親は他界されているそうだね」
唐突に問われ、僕は驚いて顔を上げた。
「どうしてそのことを……」
イスルギはバインダーファイルに視線を落としたまま、「三ツ橋くんに聞いてね」と言った。
「ところで――君が一家惨殺事件の生き残りというのは本当かね?」
僕は膝に置いた拳をぐっと握りしめた。
人に聞かれたくないであろう質問とは、このことか。
「……それも三ツ橋に聞いたんですか?」
「いや彼はそこまでは知らないようだったよ。君のことは事前に少しこっちで調査させてもらった」
僕は唖然とした。
イスルギは視線を上げ――で、事実なのかいと問うた。
「はい。……僕は死に損ないです」
そうか、と頷いたイスルギはなぜか満足げに見えた。
僕は奥歯を食いしばった。一体何なんだ。人の過去を暴き立てて。この質問がアルバイトとなんの関係があるのだ。
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