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僕は黙した。——何がつまりなのか。さっぱり意味が解らなかった。
「……えっと、血流で?」
「血流じゃない。血流動態反応だ」
イスルギは苛立ちもあらわに言う。まるで責めるような口調である。
「バイタルサインと感情を結び付けようとする試みは古くから研究されているんだよ。例えば嘘発見器なんかはそうだ。最初のポリグラフは心臓医であるジェームズ・マッケンシーが千九百六年に発明したと言われているが、それより前の千八百九十年にはイタリアで犯罪者の血圧を測定するための専用の手袋が使用されていたと伝えられている。昔から実用されており、歴史あるものだ」
はあ、と僕は気のない返事をした。
「血流から感情を読み取ろうとする試みが昔から行われてきたことはわかりました」
血流じゃない血流動態反応だ、とイスルギは不機嫌そうに繰り返す。
「でも、体験を記録するんですよね? ならビデオカメラでいいんじゃないですか?」
「——ところで君はfMRI装置を知っているかね?」
(は?)
唐突に話が飛び、僕は目を瞬いた。
知るわけがない。だがイスルギは僕の返答を待たずして続けた。
「日本語では機能的磁気共鳴画像装置といってね。人間の脳活動を測定し、視覚化するものだ。つまり人の思い描いた映像を取り出し、デジタルイメージで再現することができる」
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