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「なあ青砥、おまえの隣なんかいるぞ」
「あれはたぶんクラスメイトだ」
「マジかよ。七不思議のひとつじゃないのか」
去年から同じクラスだった緑川が不審な目を向ける。
学年が上がり、クラス替えが行われたばかりの教室は新たな出会いや久々の再会に活気付いていた。これから高二の一年間を共に過ごすのだ。色々思うところがあるだろう。
そんな中で彼女の席、つまり僕の隣の席だけは異様な雰囲気に包まれていた。
音ひとつなく、ただ静かに自分の席に座っている。腰まで届きそうなほど長い黒髪に遮られて表情は窺えない。さらになぜか彼女の席だけ濃い影が落ちているという太陽のイタズラ付きだ。
すべてが噛み合って満ち満ちた不気味さに、誰も彼女に話しかける様子はない。
「え、俺だけに見えてるわけじゃないよな」
「大丈夫だ。僕にも見えてる」
「なるほど、あれが『真っ黒髪の白井さん』か」
緑川は噂好きで、僕の知らない情報をなぜか持っていたりする。
けれど今回に限っては僕もその名前に聞き覚えがあった。
「いつも静かにそこにいて、願いごとを言えばなんでも叶えてくれるらしい」
「そんな都合のいい妖怪がいるのか」
「妖怪じゃない。たぶんクラスメイトだ」
僕には緑川の言っている意味がわからなかった。
けれど時間が経つにつれ、その言葉の真意を理解する。
「白井さん、お願いがあるの」
クラス替えから二ヶ月が経ったある日のことだ。クラスメイトもある程度打ち解け、それぞれ気の合うグループがいくつかでき始めた頃。
一人の女子生徒が白井さんに話しかけた。
「今日黒板消しといてもらえないかな? わたし外せない用事があって」
放課後の黒板掃除は本来日直の仕事だが、頼まれた白井さんは静かに頷いた。「ありがとー」と頼んだ女子は去っていく。
それから白井さんは静かに立ち上がり、黒板に書かれた文字を綺麗に消し始めた。
優しいところもあるんだな、と僕は思っていたが、どうやら違うのかもしれないと徐々に気付きはじめる。
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