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***  次の日も、さらに次の日も彼女は黒板掃除を頼まれていた。  それだけではない。花瓶の水換えや本棚の整理、机の整列など日直の仕事に限らず教室のほぼすべての雑用を任されていた。 「さすがにこれは断ったほうがいいんじゃないか」  僕は白井さんの机の上に四十冊の分厚い問題集が積み上げられているのを見たとき、ついそう声をかけてしまった。先程「クラス全員分の問題集を職員室まで持って行って」と頼まれたものだ。  問題集の高さは座っている彼女の頭をゆうに越えている。男子でもこれを職員室まで運ぶのはかなりの重労働だ。 「持てないだろそれ」    僕がそう言うと、彼女は無言でじっとこちらを見ている。訳がわからない。 「……あー、わかった」  僕は立ち上がり彼女の机にある問題集の束を奪うように三分の二ほど抱えた。白井さんの表情は変わらない。やはり言葉も発しない。 「これくらいなら一人でもいけるだろ」  そのまま僕は廊下に向かって歩き出す。すると椅子が床を擦る音とともに「あの」と小さな声が聞こえた。 「……ありがとう」  ようやく聞けたその声は、思っていたより透き通っていた。 「なんだ話せるじゃん」  振り返ると白井さんは立ち上がっていた。僕は彼女を正面から見つめる。  真っ黒な髪と真っ白な肌。  それから日本人形のように整った容貌をしていることに気付いた。  その端正な顔立ちと透明な声色がとても釣り合っていて、思わず僕は彼女にはじめての願いごとを口にする。 「もっと喋ろうよ、白井さん」  彼女は一歩、こちらに歩み寄った。  
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