12人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「あの、小鳥さん? いったいどうしたの?」
俺は息を整えながら、「これ」と掴まれている腕を持ち上げる。
すると小鳥はハッとして腕を離した。
「ごめんなさいっ、驚いたよね? 篤史くんが困ってたから助けなきゃって思って……」
「俺が困ってたから……?」
「え、違ったの?」
俺たちは目を丸めて見つめ合う。
沈黙が落ちて、でもじわじわと小鳥の頬が赤くなっていく。
「ご、ごごめんなさいっ。私てっきり困ってるんだと思って! 本当にごめんなさい!」
「謝らないでっ、困ってたのは間違いないし」
不思議だ。さっきまで猛烈な怒りを感じていたのに嘘のように引いている。
気持ちが落ち着くと、次には笑いが込み上げてきた。
「プッ、アハハハハッ。そっか、俺が困ってたから助けてくれたんだっ。アハハハハッ」
「っ、う~~、笑わないでよぉ……」
「ごめんごめんっ。そっか、俺が困ってたから。ありがとうっ。嬉しい、嬉しいんだっ」
嬉しくて笑ってしまう俺に、小鳥は意味がわからず首を傾げてしまう。
ごめんな、笑っちゃって。でもこんなに腹から笑えてスッキリしてる。藤堂が訪ねて来てからずっと頭はぐちゃぐちゃだったのだ。
でも小鳥は恥ずかしさに少し涙ぐんでしまっている。眼鏡を外し、ハンカチで目元を抑えた。小鳥にそのまま見つめられて、ドキリッ、胸が高鳴った。
眼鏡で気付かなかったけど、思っていたより睫毛が長い。色素の薄い瞳は日溜りのように煌めいて、綺麗だなって。
妙にドキドキして、緊張して、小鳥を見つめてしまう。
小鳥は俺の視線に気付かないままで、熱い頬を冷まそうとパタパタと手で仰いでいる。
「……私なにしてるんだろ。恥ずかしい……。篤史くんを攫っちゃったみたいな……」
小鳥は俺を攫ってくれたんだ。どうしよう、嬉しい……。
でもふと、小鳥が心配そうに俺を見る。
「篤史くん、さっきの人たちなに?」
「っ……」
現実に引き戻されたような緊張が走った。
家の前の光景は明らかに異様だったのだ。……これ以上隠し通すことはできない。
「…………人柱って、知ってる?」
「えっ?」
小鳥が息を飲んだ。みるみる青褪めていく。
この世界で人柱を知らない人間はいない。
「あ、篤史くん、あの」
「小鳥さん、よかったら今日一日遊びに行こうよっ」
遮ってお願いした。もっと一緒にいたいと思ったのだ。
でも困惑してしまった小鳥にハッとする。まだ出会って二日目なのにこれは突然すぎだ。
「あ、急にごめんっ。困らせたよね……」
「……ううん、違うの。謝らないで。ちょっと驚いちゃっただけだから」
小鳥はそう言うと、さっき離した俺の手をもう一度ぎゅっと握り直した。そして。
「い、いいよっ、遊びにいこ! 私も、その、篤史くんに……会えたらいいなって思ったからっ。だから家の近くまで来ちゃって……」
それは衝撃の告白だった。
俺が人柱だって知らないのに、小鳥は俺を気にしてくれていたのだから。
「……ほんとに?」
「……ほんとだよ。行こ?」
俺もこくりと頷く。
なんだか手を離す気にはなれなくて、手を繋いだまま歩きだした。
この時、彗星衝突まで後八時間を切っていた。
最初のコメントを投稿しよう!