最高のロマンチックしよう。

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「あの、小鳥さん? いったいどうしたの?」  俺は息を整えながら、「これ」と掴まれている腕を持ち上げる。  すると小鳥はハッとして腕を離した。 「ごめんなさいっ、驚いたよね? 篤史くんが困ってたから助けなきゃって思って……」 「俺が困ってたから……?」 「え、違ったの?」  俺たちは目を丸めて見つめ合う。  沈黙が落ちて、でもじわじわと小鳥の頬が赤くなっていく。 「ご、ごごめんなさいっ。私てっきり困ってるんだと思って! 本当にごめんなさい!」 「謝らないでっ、困ってたのは間違いないし」  不思議だ。さっきまで猛烈な怒りを感じていたのに嘘のように引いている。  気持ちが落ち着くと、次には笑いが込み上げてきた。 「プッ、アハハハハッ。そっか、俺が困ってたから助けてくれたんだっ。アハハハハッ」 「っ、う~~、笑わないでよぉ……」 「ごめんごめんっ。そっか、俺が困ってたから。ありがとうっ。嬉しい、嬉しいんだっ」  嬉しくて笑ってしまう俺に、小鳥は意味がわからず首を傾げてしまう。  ごめんな、笑っちゃって。でもこんなに腹から笑えてスッキリしてる。藤堂が訪ねて来てからずっと頭はぐちゃぐちゃだったのだ。  でも小鳥は恥ずかしさに少し涙ぐんでしまっている。眼鏡を外し、ハンカチで目元を抑えた。小鳥にそのまま見つめられて、ドキリッ、胸が高鳴った。  眼鏡で気付かなかったけど、思っていたより睫毛が長い。色素の薄い瞳は日溜りのように煌めいて、綺麗だなって。  妙にドキドキして、緊張して、小鳥を見つめてしまう。  小鳥は俺の視線に気付かないままで、熱い頬を冷まそうとパタパタと手で仰いでいる。 「……私なにしてるんだろ。恥ずかしい……。篤史くんを攫っちゃったみたいな……」  小鳥は俺を攫ってくれたんだ。どうしよう、嬉しい……。  でもふと、小鳥が心配そうに俺を見る。 「篤史くん、さっきの人たちなに?」 「っ……」  現実に引き戻されたような緊張が走った。  家の前の光景は明らかに異様だったのだ。……これ以上隠し通すことはできない。 「…………人柱って、知ってる?」 「えっ?」  小鳥が息を飲んだ。みるみる青褪めていく。  この世界で人柱を知らない人間はいない。 「あ、篤史くん、あの」 「小鳥さん、よかったら今日一日遊びに行こうよっ」  遮ってお願いした。もっと一緒にいたいと思ったのだ。  でも困惑してしまった小鳥にハッとする。まだ出会って二日目なのにこれは突然すぎだ。 「あ、急にごめんっ。困らせたよね……」 「……ううん、違うの。謝らないで。ちょっと驚いちゃっただけだから」  小鳥はそう言うと、さっき離した俺の手をもう一度ぎゅっと握り直した。そして。 「い、いいよっ、遊びにいこ! 私も、その、篤史くんに……会えたらいいなって思ったからっ。だから家の近くまで来ちゃって……」  それは衝撃の告白だった。  俺が人柱だって知らないのに、小鳥は俺を気にしてくれていたのだから。 「……ほんとに?」 「……ほんとだよ。行こ?」  俺もこくりと頷く。  なんだか手を離す気にはなれなくて、手を繋いだまま歩きだした。  この時、彗星衝突まで後八時間を切っていた。
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