恋心

3/9
前へ
/49ページ
次へ
「ふうん、そうなんだ……あ、ところで私は、いつメンとグルキャンなんだけど〜」 どうやら各自がクリスマスの予定を質問されて、私が最後だったらしい。 安田さんは自分の予定について楽しそうに話し始めた。彼氏がいて、友達も多いという彼女は、どこかのリゾート地でグループキャンプをするようだ。 ほっとする私を見て、美樹が苦笑する。同期で一番仲の良い彼女は、私のことをよく分かっている。 ハリヨ商事販売部の女性社員は、全員独身。昼休みや休憩時間はガールズトークが展開されるが、主なテーマは恋バナだった。 話題を持ち出すのは安田さんで、リーダーらしくトークの中心となり、同僚にまんべんなく声をかけてくる。ちなみに、私以外の4人は彼氏持ちだ。 「男と付き合ったことないって、マジ?」「好きな人くらいいるでしょ?」「どんなタイプか好みなの?」 安田さんは誰にでもそんな感じなので、彼女にとっては挨拶みたいなもの。だけど、そっち方面の話題が苦手な私は、いつも困ってしまう。 どう答えればいいのか分からないし、たとえ分かっていたとしても、本当のことを言うのは躊躇われる。 なぜなら…… 「お休みのところ失礼します。和菓子の楓屋(かえでや)です」 背後から聞こえた声に、ドキッとした。振り向くと、開けっぱなしの休憩室の入り口に、スーツ姿の男性が立っている。 必要以上に驚いたのは、私が今、胸に浮かべた人だったから。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加