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「夏目さん。僕はこう見えて、あんがい図太いんです。安田さんに何を言われようと傷ついたりしません。いや、彼女についてはむしろ、信頼できる人だと思ってるくらいで」
「信頼……ど、どうしてですか?」
納得できない私に、彼はいつもと変わらぬ穏やかな口調で答えた。
「あの人は嘘がつけないだけです。車のことも、正直な感想を言ったまででしょう。腹の中でぼろくそに貶すより、いいと思いませんか?」
「は、はあ……でも、掛井さんの大切な車を、悪く言うなんて」
「大丈夫、気にしてませんよ。僕の車だから、僕が価値を分かっていればいいんです」
なんという懐の深さ。私は自分自身が、ちょっとしたことで腹を立てる小さな人間に思えてきた。
「それに、安田さんは細やかな気配りができる人です」
「気配り、ですか?」
細やかとはほど遠いタイプだと思うが、掛井さんは真面目である。
「んー、例えば……そうだ。昨日、夏目さんがお茶を淹れてくれましたよね」
「あ、はい。掛井さんから和菓子をいただいた時に」
「他の人は先に和菓子を食べ始めたけど、安田さんは、夏目さんが戻ってくるまで待っていました。どうしてだと思います?」
「それは、お茶が来てから食べようとしたのでは……」
掛井さんは首をゆるゆると振った。
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