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「お茶ではなく、お茶を淹れてくれる夏目さんを待っていたのです。でも、それを他の人に強制することはない。あの人は、そういう人なんですよ」
「ええ……?」
目からウロコだった。てっきり、お茶が来ないとお菓子を食べない人だと思っていた。
「知らなかった。どうして掛井さんにはそれが分かるんですか?」
「彼女とは長い付き合いなので。あと、安田さんに限らず、僕は相手のいいところを見るようにしています。そうすると、自然と好意的に接するようになって、良い関係が生まれたりしますね」
「なるほど」
掛井さんは、ただ人当たりが良いのではなく、工夫しているのだ。
「でもまあ、どうしてもダメな相手もいます。そんな時は距離を置くか、仕事と割り切るかどっちかかな」
「さすがの掛井さんも、仏様のようにはいかないと」
「そういうこと」
彼が朗らかに笑い、コーヒーを飲む。なんだかソワソワしてきた。ますます好きになってしまいそうで、落ち着かない。
「ところで、さっきの話ですが」
「あ、は、はいっ」
掛井さんがカップを置いて、少し前のめりになった。ソワソワする私に、正面から迫ってくる。
「僕は、夏目さんの気持ちをなんとなく分かっていました。でも、告白するとかデートに誘うとか、簡単にできなかったんです。万が一勘違いだったら、気まずい思いをさせてしまうから」
「そ、そう、ですよね」
彼にとって、私は得意先の社員である。告白のリスクは高いかもしれない。
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