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「だけどもう、がまんができなかった。昨日、夏目さんが、帰ろうとする僕に話しかけてくれたでしょう。嬉しそうな顔で、少し頬を赤らめて」
「はあ……え、嬉しそう? 頬を赤らめ?」
そんなだった? 狼狽える私に、彼がはっきりとうなずく。
「はい。あなたはたいてい、僕と話す時はそんな感じなので、もしかしたらと……」
信じられない。感情を隠していたつもりが、実は漏れていたってこと?
「まじですか? は、恥ずかしい……」
「いえいえ、素直で、とても可愛いですよ」
「……」
今すぐにカフェを飛び出したかった。でも私は逃げることもできず、掛井さんの視線に晒される。
「これはチャンスだ。僕は急いで考えを巡らせ、イベントのチケットが一枚あるのを思い出して、あなたに渡しました。ダメ元でも行動するべきだと、自分を励ましながら」
「掛井さん……」
「あなたは必ず、来てくれる。しかも、早い時間に来てくれるだろう。そして僕の予想は当たり、そのあとは……知ってのとおり」
「デートに、誘ってくれたんですね?」
「うん」
まったく気づかなかった。たまたまチケットをくれただけだと思い妄想を抑えていたのに、実は妄想のとおりだったなんて。
落ち着くために、カップを手に取る。少し冷めてしまったが、丁寧にドリップされたコーヒーは、十分に美味しい。
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