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「担当になれたらいいなあ。でも、楓屋さんは大口だし、経験を積まないと無理よね」
私が入社した時から、安田さんが楓屋を担当している。彼女は掛井さんと同い年だからか、口の利き方も親しげだ。
いや、親しげというより、安田さんの場合はほとんど……
「私はまだ入社2年目で、立場も弱い。ていうか結局、性格だよね」
もっと自信を持てたら、フォローできるのに。
自己嫌悪に苛まれながらお茶を淹れると、湯呑みをおぼんにのせて、給湯室を出た。
「掛井さん、クリスマスの予定は?」
休憩室に入ろうとした私は、ふと足を止めた。安田さんが、同僚に向けたのと同じ質問を彼にしたところだった。
その場に立ち、思わず耳を傾ける。
「いやあ、特にありませんが」
「ええ〜? 掛井さんって私と同じだから、もう30だよね。彼女の一人や二人いないの?」
「ハイ、残念ながら」
問われるままに彼が答える。
迷いのない即答に、私は心が明るくなるのを感じた。なんとなくそうじゃないかと思っていたけれど、ハッキリと知らなかったから。
「ふうん、そうなんだ。じゃあ、一人でどうやって過ごすの? 今年のクリスマスは週末だし、仕事はお休みでしょ?」
安田さんの言い方は少し意地悪だった。こちらの立場が強いものだから、からかってもいいと思っているのだ。
彼女はいつも、そう。私はそのたびに、歯痒い気持ちでいっぱいになる。
「お待たせしました〜!」
ことさら大きな声を出して、休憩室に入った。こんなことで安田さんの気が逸れるわけもないけれど。
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