恋心

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「ステーションワゴンって、まさか、社用車みたいな? シルバーとか白の、だっさい車。あんなのに好きで乗ってる人がいるんだ〜。もう、掛井さんってまじで面白い。ウケる〜!」 ああそうかと、皆、納得の顔になった。車のイメージが想像できたからだ。 だけど、私はムカムカしてきた。どんな車に乗ろうが、人の勝手ではないか。高級車だろうと、社用車だろうと、好きな車に乗るのが最高だ。 それに大切なのは、車への愛情と、ドライバーの腕である。これは父親の受け売りだけど――とにかく、今日の安田さんはいつにも増して失礼だ。取引先の営業マンにグイグイ迫る姿はほとんどハラスメントといえる。 「あのっ、安田さん」 思わず声を発した。 安田さんも同僚も、そして掛井さんも、一斉にこちらに注目する。 (しまった。つい……) 「なに? どうしたの、夏目さん」 安田さんが目尻を拭いながら返事した。まだ笑っているが、言い方によっては機嫌を悪くするだろう。 「いえ、あの……」 〜失礼な発言を謝ってください〜 本当は、そう言いたかった。だけど私は急に怖くなり、口ごもった。そして、とにかくこの場から逃げ出したくなる。 なぜムキになってしまったのか。当の掛井さんは気分を害した様子もなく、穏やかに微笑んでいるのに。 「その……トイレに行っても、いいですか?」 一瞬、水を打ったようにシーンとなるが、安田さんがぷっと噴き出すと、一気に笑いがはじけた。
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