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重尾
おかしなことになった。
重尾は、濱井の運転する車の後部座席に座っている。『Blanca Nieves』と花屋のロゴが入った配達用の車だ。隣にはシラユキが座っている。重尾はしゃべれない。二人の間に目に見えないアクリル板が間に挟まっているようだ。
重尾は初めて会った時にどんな風に会話したか、頭をフル回転させて思い出している。あんなに滑らかに出てきた言葉はどこにいってしまったんだ。それに比べるとシラユキは落ち着いている。言葉こそかけてこないが、ちらちらと重尾の様子をうかがってにこにこしている。
濱井がシラユキに声をかけた
「ユキちゃん、なんかにやにやしてるね」
「えー、してないもん」
「そうかなあ」
「全然普通だよ」
重尾はまったく反応できない。頭が鈍っている。これはシラユキと二人になっているせいだけじゃない。香りのせいだ。さっきまで配達していた花の香りが残っているのだろうか。甘い香りが社内に漂っている。
魅力的だが、嗅ぎなれない花の香りだ。バラでも百合でもない。でも、記憶にある香りだ。いつだ・・・。
ああ、スノウホワイトだ。その瞬間、香りの源にも気づいた。
シラユキだ。彼女の体から、花の香りが漂ってくる。
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