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「そうだよ。私の故郷は、イスラ・コンティキ」
「あ、ホレさん」
シラユキが、重尾の背後に向けて手を振った。そこには40代半ばの、小柄な男性が立っていた。
作業服の胸には、「ホレさんの花畑」と刺繍されている。
「こんにちは、お邪魔しています」
濱井はホレさんから一歩下がったところに立ってニコニコしている。そしてもう一人。
「また会いましたね」
桐島だった。彼もまた「湯府総合高等学校 環境グリーン科」と刺繍された作業服を着ている。
「桐島先生のお知り合い?」
ホレさんが怪訝な顔で尋ねた。
「ええ。うちのOB、なんですよね。今日もお暇なんですか?」
「ええ、わりと暇なんです。職業旅人なもので」
重尾は笑顔を作った。
「旅人? ふうん」
桐島も笑顔だ。しかし、濱井もホレも、違和感を覚えているようだ。
まずいな、おかしな空気になってしまった。重尾は心の中で舌打ちをした。
ホレが濱井に話しかけた
「濱井くん、ちょっと花の出荷で打ち合わせたいことがあったんだけどな。」
桐島はそれを受けて
「じゃあ僕はこれで失礼します。学校に戻らなきゃいけないし。フラワーフェスティバルの件は、よろしくお願いします」
と言った。
「ああ、大丈夫だよ。困ったときはお互い様だ」
ホレさんは桐島に向かってほほ笑んだ。
「じゃあ、そこのOB君は俺と一緒に帰ろうか」
桐島は有無を言わさない勢いで重尾に言った。
どうする? 重尾はチラリとシラユキの様子をうかがった。シラユキは困った顔で立ち尽くしていた。潮時かな。
「いいんですか? 帰りの足をどうしようかと思ってたんです。助かります。濱井さんありがとうございました。シラユキちゃん・・・」
言葉を切ってシラユキに向かって言葉をかけた。
「シラユキちゃん。またね」
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