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桐島の車はミニバンだった。
車を少し走らせてから、桐島は言った。
「 あの事件に関することだったら、学校を通していただきたいですね。外堀でも埋めてるつもりですか? 面白おかしく書き立てられて、生徒も苦しんでるんです。お答えできることだったらずっとお答えしてきたつもりですが 」
「いずれお伺いするつもりでした。僕は重尾って言います」
重尾はリュックの底に入れていた警察手帳を桐島に示した。桐島は驚いた表情をした。
ごくりとつばを飲み込む音が聞こえるようだった。
「どこかに停めませんか、ちょうどコンビニがあります」
重尾が示したコンビニに、桐島は車を停めた。重尾はコーヒーを買ってきた。
「ありがとうございます」
桐島は素直にコーヒーを受け取った。
「桐島さん。何か心配なことがあるんですか」
桐島は答えない。
「警察は、秘密をお守りしますよ。ほら、この前先生に追い払われたときに話してた女の子がいるでしょ。あの子にまた声をかけたんです」
「それは本当に困ります。生徒たちはあの件で本当に参っているんです」
「すみません。桐島先生は関係ありませんってきつく追い払われました。信頼されてるんですね」
「信頼・・・・」
桐島は手に持ったコーヒーに目を落としたまま黙り込んだ。
「それとですね、僕、もう一つ感じたんです。この子は納得してないなって」
「納得?」
「ええ。あの生徒は山田サラが自殺したなんて納得していない。たとえ目の前で教室から飛び降りたんだとしても、自分からそんなことをするはずがない。ましてや桐島先生が関係してるなんてありえないって。そういう顔をしていました」
「ありがたいですね。僕と山田の間に何かがあって、それがあんなことに結びついてしまったんじゃないかって、だいぶ追及されましたから」
山田サラと最後に交わした会話の詳細を、桐島は警察相手に何度繰り返したことだろう。ウソはつかなかった。言えなかった言葉一つあっただけだ。
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