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桐島はたじろいだ。山田サラは、衆人環視の中、自分で窓から飛び降りた。自殺を疑う余地はない。でも、山田サラは、空洞みたいな目をしていた。何の意思も感じられない、深い穴のような目。あれはいったい何だったんだ?
アレは山田サラの目ではない
「何か、あるんですか? 警察は何かつかんでいるんですか」
重尾はそれに答えずに、質問を重ねた。
「彼女が飛び降りる前、何か奇妙なことはありませんでしたか?いつもと違うそぶりであったり、おかしな人物がいたり」
おかしな人物・・・
桐島に、真っ赤に染まった空がよみがえった。赤い空を背負って立っている、きれいな横顔の男。
「・・・山田サラは、キスをしていました」
キス? 重尾は内心の動揺を必死に抑えた。
「誰とですか」
「わかりません。僕も、夢でも見てるのかと思ってました。ホレさんの農場で実習をさせてもらっているときに、山田サラが一人で抜け出したことがあったんです。その時に・・・」
「どんな、人と?」
「とてもきれいな男でした」
男か。重尾はひそかに胸をなでおろした。シラユキではなかった。
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