シラユキ

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   8     なんだか、急に、知らないことでいっぱいになってしまった。困惑しているシラユキの様子を、彼は腕組みをしてしばらく眺めていたが、やがて表情を和らげて言った。 「シラユキちゃん。ユキちゃんって呼んでもいい?」 「あ、はい。よくそう呼ばれます」 「じゃ、ユキちゃん。俺は重尾(しげお)。苗字が重尾で名前が大樹(だいき)。友達からはシゲって呼ばれることが多いよ」 「・・・シゲ」 「いや、いきなり君からシゲって呼ばれるのはちょっと違う気がする」 「じゃ、なんて呼んだらいいんですか」 「んー。何がいいかな。重尾さん。大樹さん。さん付けはよそよそしいな。重尾君、大貴君。君付けもなんか違うな・・・よし、次に会う時までに考えておこうか」 シラユキの心に、光がともるように「次に会う」という言葉が差し込んできた。 一瞬顔を上げた。重尾と目が合うと、また恥ずかしい気持ちが込み上げてきて目を伏せた。 それから二人はまた、肩を並べて歩いた。重尾はシラユキに質問をする。シラユキはそれに「はい」か沈黙で答える。シラユキには答えられないこと、答えてはいけないことが多すぎた。LINEもスマホも知らないから、連絡先を交換することもできなかった。 質問に答えられないたびに悲しい気持ちになる。 だから、坂道を降り切ってしまったとき、シラユキはほっとため息をついた。 坂道の終点は、海に沿って走る国道に交わる。横断歩道を渡ったら、目の前は海だ。深呼吸すると、新鮮な海の匂いがする。なんだか生き返ったような気持ちだ。 「今日はありがとう。お礼に、あそこのアイスクリーム奢らせて。」 重尾は、テイクアウトのアイスクリーム店を指さした。
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