重尾

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ラーメンは秒速で出てきた。どおりでうまいラーメンなのに行列が全くできてないわけだ。 「店の地下に奴隷が百人いるって噂です」 「まさか」 二人はあっという間につまらない冗談を言える間柄になった。こんな出会い方でなければいい友達になれただろうと重尾は思った。しかし、会話の中で、桐島が学校の農場の土壌検査を「地球熱学研究所」に依頼しており、その結果を明後日もらいに行く予定だと聞いたとき、重尾はそこの所長と知り合いだとは言わなかった。桐島が研究所を訪れた後に何気なく様子を聞きに行こうと考えた。 「今日はこんないい店まで教えてもらって、ありがとうございます。何か、気になることがあったら遠慮なく連絡ください」 「ホテルまで送りましょうか?」 「大丈夫。ちょっと歩いて土地勘もつけたいんで歩きます」 「分かりました。じゃ、僕はここで失礼します」 桐島は車を発進させた。バックミラーに映る重尾の姿があっという間に小さくなる。 結局俺は、言えなかった。山田サラに最後にかけた言葉が「飛んでみなよ」であったことを。
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