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シラユキ
「ごめんなー、ユキちゃん。こんなことになるとは思わなかったよ。あいつ、悪いやつだったのかな」
ホレさんの農場からの帰り道、濱井さんが、無理に明るい声を出して話しかけてきた。
「う・・・ん。濱井さんは何も悪くないよ。あの・・あの人も悪い人かどうかはまだわかんないし」
シゲ。次に会うときは何て呼んだらいいのか考えようって言ってくれてたのに。こんなことになってしまった。シラユキは行きがけの車の中ですっかり浮かれていた自分が恥ずかしくなった。シゲは何者なんだろう。
重尾と桐島が立ち去った後、ホレさんが厳しい口調でシラユキに聞いた。重尾と名乗るあの男は何者なのか。シラユキは何も答えられなかった。お店に来たお客さん。他に誰もいなかったから自分が接客した。まだ花を買いに来る約束をしてくれた。ただそれだけ。
一緒に海岸線まで散歩したことは、言えなかった。
「あの男から、何を聞かれたのかい?」
ホレさんは、優しい口調に戻って、シラユキに尋ねた。
「どこに住んでるのか、何してるのか、学校に行ってるのか・・・」
「何してるって答えたのかい」
「花屋の手伝いしてるって。あとは何も・・・言ってない」
「そうか。わかったよ」
濱井さんが口をはさんだ
「ホレさん。ごめん。俺が連れてきちゃったんだよ。ユキちゃんに知り合いができるなんてことがなかったからさ。あいつやばいやつなのかい?」
「そりゃ分からないさ。でもユキちゃんはお年頃だからね。変な虫がついたら大変」
ホレさんは濱井の存在を忘れていたかのように、慌ててとりつくろった。
「そっか。それもそうだな。俺が悪かった。もうあいつは近づけないようにするから、今日はもうユキちゃんを許してあげて」
「もちろんだよ。ユキちゃん。また遊びにおいで」
ホレさんは明るい声で言ってくれたけど、シラユキは、何かがちがうと感じていた。
何か、変なことになっている。
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