大瀧

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大瀧

駅の転落事故データが解析された。 ビルから飛び降りた男の周辺に、「キステロ女」の痕跡なし。周辺のカメラにも、「キステロ女」の後頭部は検出されなかった。 駅ビル構内には広告が投影されるタイプの大きな柱が中央に何本か配置されている。 「たぶん、ここの影に潜んでたんだろな、キステロちゃん」 交通管理局の大瀧望は、ぶつぶつと独り言をつぶやきながら画像データを一つ一つ解析していった。死んだ男の歩行経路と、その時々に生まれるカメラの死角の隙が、きれいに浮き彫りにされる。 誰かが指示を出している。 それも、カメラの映像を閲覧しながらだ。 固定された死角のみならず、その時々でできる人間の波による死角まで上手に使われている。 こんなこと、誰ができる? 天才ハッカーでもいるのか? だとしたら相当やばいぞ。 「くーーーっ」 大瀧は立ち上がって思いっきり背伸びをした。交通局で画像解析を行うのは初仕事だった。
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