大瀧

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交通局は、元々信号の制御など、交通管制をやるのが主な仕事の、地味な局だった。 それがNシステムの登場で変わった。高速道路の通行記録が常時記録されるようになり、どの自動車がどこを走っていたのか、その気になれば調べ上げられるだけのデータを管理できるようになった。 プライバシーと安全を天秤にかける大議論ののち、大多数が安全を選んでからは一気に権限が加速、先日の改正テロ対策法の施行で、交通管理局はETCのみならず各公共施設などに設置された防犯カメラの映像に、必要に応じて令状なしにアクセスできるようになった。クラウド上にある無数の映像データが閲覧自由なのだ。 「のぞき部屋」と揶揄されることもある、膨大な個人情報に触れることのできる組織になり、警察からの派遣職員も増えた。大瀧はその第一号である。 「はあ、終わった。」 大瀧が命じられたデータ解析は、普通はチームを組んでやる仕事だが、県警からの極秘の依頼だったため、直属の上司とほぼ二人で取り組んだ。初めての仕事にしては骨が折れるものだったから、終わった安堵は思いっきり顔に出ていた。データの送信を終えると、晴れやかな顔で管制室に戻った。 「ややこしい仕事、やっと終わったみたいだね。何の仕事だったん?」 同僚の神山が、声をかけてきた。 「いえ、仕事っていうか、研修です。今後どうやってデータをどうやって捜査に利用していくか、想定してました。」 ここは、同僚でも嘘をついておかねばならない。
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