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「どんな想定をしてたわけ?」
「そこを黙秘するところまでが研修です」
わざときりっとしたキメ顔をして見せると、ただでさえ大きな目がますます大きくなる。大瀧は180センチ越えの長身だから、小柄な神山は見下ろされる形になるのだが、なぜか大瀧から上目遣いに見られているような雰囲気になる。
子犬みたいだ、と神山は思う。大型犬の子犬にじゃれつかれている気分だ。
神山は生え抜きの交通管理局の職員だ。高卒でここに入局してきたのだから、かなり有能な男だ。小瀧の指導担当である。
「職務に忠実でたいへんよろしい。かっこいいね、警察」
「いや、ここの仕事も相当かっこいいですよ」
「あれれ、のぞき魔みたいで気持ち悪いって言ってませんでしたか?」
「言いました!」
大瀧は、交通管理局への出向がものすごく不満だった。その本音が四月の歓迎会で大爆発してしまったのだ。悪酔いして、こんな覗き魔の集まりみたいなところで働くのはイヤだと絶叫したあげく、つぶれてしまったのだ。
アパートまで連れて帰ってくれたのは神山だった。朝、目を覚ますと、一番なくすと怖いスマホと財布がテーブルの上に置かれていて、部屋の鍵は新聞受けの中に入っていた。外から鍵をかけて、新聞受けに落としてくれたのだろう。
「後始末、完璧じゃん」
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