大瀧

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「で、お前が来たわけね」 と、重尾は言った。増員が来ると言われたときはもっとベテランが来ると思ったのだが、似たくらいの経験値の大瀧だったのは意外だった。 「久しぶり」 真ん中で分けたサラサラの髪がすでにかっこいいオーラを出している。その下で大きな目がキラキラ輝いているのだから、そりゃ、話にならないくらいモテる。 二人はいま、「地球熱学研究所」が見下ろせる駐車場に車を止めている。坂道の町だから、対象を監視するスポットを探すのはたやすい。 桐島が、「地球熱学研究所」を訪れているのだ。桐島には、まだ話し足りていないことがある。重尾はそう思っていた。彼は何か動くかもしれない。または、誰かに何かを語るかもしれない。そんな気がしていた。 大瀧の首元には、シルバーのチェーンが鈍く光を放っている。ごついデザインの洒落たものだ。重尾は、ファッションには無頓着なほうだが、たぶんおしゃれなネックレスなんだろうと思っている。問題は、そのチェーンにぶら下がってるチャームだ。 「そのネックレス、時々してるけど、先っちょについているやつ、なんか変わったデザインだよな」 「これな。アイロンビーズ。知らん?女の子が遊ぶやつ」 「いや知らんよ。なんでそんなおもちゃみたいなのつけてんの」 「昔もらったやつだから。」 「彼女?」 「いや小学生だったし。ひまつぶしに作ったのをもらっただけだよ」 「初恋?」 「いやだからヒマつぶし。小学生の時、俺もその子も入院しててさ。小児病棟仲間なんだよ。おれは盲腸こじらせたのが結構長引いて。この子の病気は、、、ちゃんと聞かなかったな。親も忙しくてなかなか見舞いにも来ないから、ずっと二人でロビーとかナースステーションの前とかで暇つぶししてた。俺がルービックキューブにはまってたから、退院するときにその子がアイロンビーズでルービックキューブ作ってくれたんだよ」
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