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「その子は今どうしてるん?」
「俺が退院してすぐに亡くなったらしい。あとで知って悲しかったよ。だから時々こうやって使ってる。覚えてるよーって」
「初恋?」
「違う違う。病院友達よ。それだけ。ただ、ずーっといっしょにいたんだ。ほかの大人はみんな仕事をしてて、世界に俺とその子しかいない感じだった。病院ってそんな感じになるじゃん。だからさ、こうやって思い出すわけよ。お前と会うんならおしゃれしなくてもいいし」
「おい。」
「さて、雑談はおいといて。お仕事の話でもしますか。桐島って先生は、土壌分析の結果をもらいに来ただけなんだよな」
「そのはずだ。」
「もらったら学校に戻るんだよな」
「たぶんな。外回りしてもいったん必ず学校に戻るって言ってた」
「にしては、長すぎんか」
「たしかにな」
「重尾、お前、中田さんのこと、どれくらい知ってる?」
「え? バイト先によく花を買いに来てくれた、実家が太くて話が面白い人だよ」
「中田さんが養子だって知ってたか?」
「養子?」
「ああ。しかも、日本人じゃない。イスラ・コン・ティキの高官の息子だ。17年前のクーデターで家族は惨殺されていて、たまたま日本にホームステイしていた彼だけが生き延びた」
重尾はあまりのことに言葉を失った。
大瀧は続けた。
「例の農場を経営してるのもイスラ・コン・ティキからの難民。そして、フラワーフェスティバルに来るのは新政府の偉いさん。重なりすぎてる」
「まさか・・」
「花屋に登記上の問題はない。農場主も評判のいい働き者だ。中田さんもきちんと研究所を運営してる。一人一人を見れば何の問題もない。でも、重なりすぎてる」
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