桐島

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桐島

午前中の実習が終わった。桐島はコンビニで買っておいたサンドイッチを食べて、「地球熱学研究所」に向かうことにした。土壌検査の結果と、土壌に関するアドバイスを簡単にいただいてから学校に戻る予定だ。 移動時間含めて1時間超ってとこかな。放課後はホレさんの農場からフラワーフェスティバル用のプランターが届くから、園芸部や生徒会の子たちを手分けしてビニールハウスや実習農場に保管しておかなければならない。 それまでには戻らないとな。 相変わらず食べ物の味がしない。食欲が全くわいてこないのだ。しかし、体を維持するために必死に食べている。俺のメンタルはいつ回復するんだろうか。 「じゃ、行ってきます」  渡辺先生に声をかけてから、桐島はロッカーをあけた。正装は実習服という業界だ。ジャケットやスーツとは縁のない生活をしている。さすがに外部の人に会うときは実習服というわけにはいかないから、シャツ、ネクタイ、ジャケットその他を実習農場管理室のロッカーに置いている。管理室にいるのは慣れ親しんだ男性教員ばかり、ロッカーの周りに簡単な間仕切りをして気兼ねなく着替えている。 ジャケットをはおった後、何気なくポケットに手を入れると、指先にあたるものがあった。 何か入れてたかな。 取り出すと、それは何かのケースのふただった。ふたには日付を手書きしたシールが貼られている。『2023.4.30』何の日付を表しているかはわからない。特徴的な、右肩上がりの字だ。 思い出した、あの時に拾ったやつだ。
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